ヨウ素

生化学

この必須微量元素はヒトの代謝において重要である。2種類の最も重要な甲状腺ホルモン、サイロキシン(T4)およびトリヨードサイロニン(T3)の形成に不可欠である。サイロキシン、つまりT4は4個の、トリヨードサイロニンは3個のヨウ素原子から成る。甲状腺ホルモンは濾胞細胞内でアミノ酸であるチロシンとハロゲン元素であるヨウ素から生成される。甲状腺ホルモンはコロイドから放出され、甲状腺刺激ホルモン(TSH)と呼ばれる下垂体ホルモンによる甲状腺の刺激に反応して血中に分必される。

吸収と排泄

ヒト体内のヨウ素の約99%は甲状腺に存在する。ヨウ素は代謝される前に小腸から吸収される。摂取したヨウ素の60〜80%が腎臓を介して尿中に、少量が糞便中に排泄される。1日平均尿中排泄量は、成人で30〜40μg、13〜15歳の少年少女で平均23μgである。大幅な排泄量の低下は欠乏症を示している。糞便中排泄物は大部分が肝臓で分解されたホルモンに由来する。体内総ヨウ素の約90%は甲状腺内に存在し、その量は6〜12mgに及ぶことがある。他の残りのヨウ素は、細胞内に少量であるが必要量存在しているのを除いて、大部分が細胞外に存在している。ヨウ素の代謝は甲状腺ホルモン生成過程に密接に関連している。

代謝

甲状腺内のヨウ素の代謝は次の段階に分かれている。

1. 濾胞細胞によるヨウ素の捕捉(取込み)

2. ヨウ素は化学的勾配および電気的勾配に逆らって甲状腺細胞に集まるが、これには細胞膜レベルにおいてエネルギー依存性の能動的なヨウ素取込み機構を要する。この取り込み(捕捉)機構は臨床検査で甲状腺機能を評価するために何年間も利用されている。患者に放射性ヨウ素を経口投与して甲状腺に摂取される程度をモニターする。しかし、捕捉に影響を及ぼす最も重要な因子は甲状腺刺激ホルモン(TSH)であり、TSHはヨウ素の捕捉を促進する。ヨウ素の輸送は、ヨウ素の過剰摂取により抑制されるが、ヨウ素欠乏症では促進される。

3. 有機化は甲状腺内ヨウ素代謝の第二段階であり、この段階でヨウ素は甲状腺ホルモンに組み込まれる。この過程で用いられるヨウ素は、捕捉または取込みに由来するもの、貯蔵された甲状腺ホルモン前駆体の甲状腺内脱ヨウ素化に由来するものである。甲状腺内のヨウ素はペルオキシダーゼの存在下で酸化されてタンパク質サイログロブリンと結合する反応型になる。

4. モノヨードチロシン(MIT)とジヨードチロシン(DIT)が縮合してトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)ができる。

5. 貯蔵

6. サイログロブリンは細胞から濾胞のコロイドに放出された後、貯蔵される。サイログロブリンの貯蔵機能によって一定量のヨウ素含有甲状腺ホルモンが供給される。

7. 分泌

8. TSHは甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの合成および放出を促進する。まず、コロイド小滴はコロイド細胞に取込まれ、プロテアーゼにより消化される。そしてサイログロブリン基質からMIT、DIT、T3、T4が放出される。細胞内MITおよびDITは脱ヨウ素化され、それらのヨウ素によって甲状腺ホルモンが合成される。放出されるT3およびT4は甲状腺内脱ヨウ素化に抵抗性であり、活性ホルモンして分泌される。

 

欠乏症

ヨウ素欠乏は甲状腺腫を生ずる。甲状腺腫は欧州アルプス山脈でよく知られた病態である。ドイツでは人口の10%がヨウ素欠乏症であると推定される。この微量元素は、海水、海産魚類中に豊富に含まれているので、海岸地域で欠乏症が起こるのはまれである。世界保健機関(WHO)は、ドイツにおけるヨウ素欠乏症の罹患率は他のどの国よりも高いということを認めている。

欠乏症状

· 甲状腺腫

· 精神反応の低下

· 乾燥した、脆弱な毛髪

· 体重過大傾向

· 脱毛

過剰症

神経過敏。バセドウ病が発症することがある。

その他

 患者によってはヨウ素補充後に座瘡または蕁麻疹などの過敏反応が起こる。

毒性

Prof. Dr. Robert E. Hodges(カリフォルニア大学医学部長)は、1mgまでの摂取は無毒であることを示唆している。日本人の平均ヨウ素摂取量は約3mg/日で、日本では甲状腺異常はきわめてまれである。

面白いことに、甲状腺のヨウ素曝露量が急速に大きく増加すると、甲状腺ホルモンの生成および放出が抑制される。これは、「ウォルフ・チャイコフ効果」として知られている現象である。しかし、高濃度のヨウ素への曝露がしばらく持続した後、抑制作用は止まる。 

供給源

ヨウ素は多くの食品に含まれる天然成分であり、バランスの取れた食事をすることで十分摂取することができる。しかし、1日の摂取量は著しく変化し、その量は少ないときで250μg、多いときで700μgを超える。日本人はヨウ素摂取量多いが、アフリカ、南米、アジア、欧州には摂取量が50μg/日の地域がある。

食品中のヨウ素は主に海産物および飲料水に含まれているが、飲料水中のヨウ素の量は場所により大きく異なると考えられる。ヨウ素が欠乏している地域では、欠乏症を予防するためにヨード塩(ヨウ化物を添加した食卓塩)を取り入れている。今日では、米国で使用されている食卓塩の約半分にヨウ化ナトリウムが含まれている。5gのヨード塩を摂取すると約100μgのヨウ素を摂取することができる。

疾患への応用

 

治療方針

ヨウ素欠乏症はヨウ素摂取量を増加することにより治療できる。さらにチロシンを補充すると、ヨウ素の取り込みおよび甲状腺ホルモンへの変換が促進される。

Minimum Daily Iodine Requirement (in mcg)

Recommended by:         German Society for Nutrition US RDA

Infants 0-12 months

50-80  40-50

Children 1-9 years

100-140  70-120

Children from 10 years

180-200  120

Adolescents

200  150

Adults to 35 years

200  150

Adults over 35 years

180  150

Pregnant

230  175

Nursing mothers

260  200

 

 

Iodine content in foods (μg/100g )

Plant food

Animal foods

Spinach

12-20

Fish oil (unprocessed)

97-476

Mushrooms

18

Crustaceans

245-416

Carrots, Broccoli

15

Salmon

260

Nuts

2-14

Flounder

190

Cabbage

12

Mussels

130

Rye bread

8.5

Cod

120

Radishes

8

Perch

74

White bread

6

Oysters

58-60

Oat flakes

4-6

Halibut, Herring

52

Soybeans

6

Tuna

50

Potatoes

4

Meat

3-30

Cucumbers

2-3

Cheese

5-23

Rice. Onions

2

Full cream milk

4-11

Fruit

0.1-2

Egg

10

 

臨床検査

甲状腺ヨウ素摂取率

甲状腺のヨウ素取り込み作用は甲状腺機能の評価に用いられている。これらの試験では、ごく微量の放射性ヨウ素を患者に投与する。甲状腺に集められた放射性ヨウ素により放出されるγ線は特殊な画像診断法で検出され、甲状腺放射性ヨウ素摂取率に変換される。この検査は捕捉および有機化機構により甲状腺に集まる放射性ヨウ素の割合を測定する。一定時間の甲状腺ヨウ素摂取率は甲状腺ホルモンの合成および分泌を反映しており、これは甲状腺の機能状態を反映している。甲状腺機能低下症では摂取率低下が認められ、また甲状腺中毒症、亜急性および一定の慢性甲状腺炎、ヨウ素誘発性甲状腺機能亢進症などの機能亢進症に関連した一定の病態においても低下が認められる。頻繁な放射性ヨウ素の投与および甲状腺のX線検査は甲状腺癌を引き起こすことが知られている。

タンパク結合ヨウ素(PBI)

この検査は甲状腺ホルモンおよび他の内分泌腺以外の部位に含まれるタンパク結合ヨウ素を測定するが、利用されるのはまれである。しかし、橋本病および亜急性甲状腺炎などの病態で血清中に放出されることがあるT4以外の内因性ヨードタンパクの減少を検出するのに有用であると考えられる。

質量分光分析法による血清、血漿、全血、毛髪組織のヨウ素特異的検査は、適切な基準がないため半定量的にすぎない。この分析方法は潜在能力を有するが、分析法を改善するためにさらなる研究を要する。

毛髪および爪:爪・毛髪中の濃度は曝露および症状との相関が認められている。

研究

爪および毛髪ヨウ素濃度は大部分の甲状腺疾患において低下するが、甲状腺癌の場合には上昇する。

 甲状腺癌患者では毛髪ヨウ素含有量の上昇を認めた。

虚血性心疾患患者におけるヨウ素蓄積

体重過大を伴う虚血性心疾患患者ではI-311の蓄積量の低下が認められたが、代謝性食事性肥満症患者ではその頻度は低かった。血清a-コレステロール/コレステロール比の上昇は肥満患者と比較して虚血性心疾患患者で多く見られた。虚血性疾患患者における甲状腺のヨウ素蓄積機能の低下は、コレステロール含有量の低下およびa-コレステロール含有量の上昇を伴っていた。これらの変化は肥満患者では認められなかった。甲状腺のヨウ素蓄積機能低下では、コレステロールおよびa-コレステロールの含有量は、体重過大を伴う虚血性心疾患患者においても、また代謝性食事性肥満症患者においても同様には変化しなかった。

 

過剰補充により座瘡状発疹が生じる、または悪化すると考えられる。

欠乏症は多形核球の殺菌活性の低下に関連している。

欠乏症は線維嚢胞性乳腺症の発症に関連していると考えられる。

 

動物実験:ヨウ素欠乏ラットはヒト線維嚢胞性乳腺症に組織学的に類似した病変を発症した。これらの所見は高齢ラットでより顕著であった。

線維嚢胞性乳腺症に関連した過形成は、ヨウ素長期投与例において大幅に消失し、症状は治療群の90%超で改善する。しかし、線維症は残存し、それが相当な場合、前癌状態の可能性の前兆と考えられることがある。

患者715例にヨウ素分子を投与したところ、重症度により2〜8週間後に症状の軽減を概して認めた。4ヵ月後、すべての患者で嚢胞が消失し、約70%で完全に痛みが消失した。線維症は存続する傾向があったが、1年以内に患者の95%において病態および関連痛が消失した。しかし、長年にわたる線維症は消失に3年を要した。

塊の多い、または腫脹性の乳房で、慢性乳房痛を訴える患者299例をサーモグラフィー、マンモグラフィー、乳房検査によって評価した。病変が良性であることを確認した後、水溶性ヨウ素3〜6mg/日を経口投与した。ヨードカゼイン投与患者を水溶性ヨウ素療法に移した。12週間後、線維症は新規患者とヨードカゼイン療法から移された患者の両方でよくコントロールされていた。このように、すべてのヨウ素化合物は良性乳房異形成の疼痛および嚢胞形成を改善するが、水溶性ヨウ素はこれらの組織において見られる著しい線維症を減少または消失する。

患者588例の90%でヨードカゼイン補充後、「良好」以上の結果が得られた。43%において痛みが完全に軽減したが、44%では線維症の存続に関連した不快感が持続した。


Copyright 1998 - 2005 by L. Vicky Crouse, ND and James S. Reiley, ND. All rights reserved (ISSN 1527-0661).
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