亜鉛

日本の栄養機能食品成分許容範囲:3−15mg/day

1日あたりの推奨摂取量:RDA(米国データ-)  

  ・成人:15mg

  ・10歳未満:10mg

  ・乳児:5mg

  ・妊婦および授乳期:20mg

米国の栄養療法における最適な健康をつくるためのマグネシウムの男女必要摂取量(米国ODI)

 20−50mg

機能

· 酵素およびインスリンの合成に不可欠

· 多くのビタミン、特にビタミンB群の吸収および代謝における補因子

· DNAおよびRNAの合成

· 創傷および熱傷の治癒

· 前立腺機能

· 性ホルモンの産生;成長および発育

 

 亜鉛はヒトおよび動物の栄養素のなかで重要な微量元素である。亜鉛は、アルカリホスファターゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、RNAおよびDNAの合成に関与する酵素など90種類を超える重要な金属酵素の補因子である。亜鉛の吸収率は食事摂取量に直接関連しているということが示唆されている。食品亜鉛の約20〜30%は体に吸収され、約2mgが貯蔵される。血漿中の亜鉛はタンパク質と結合して存在している。血清アルブミンが大部分の血漿亜鉛と結合しているが、トランスフェリン、セルロプラスミンなど他のタンパク質もこの微量元素に高い親和性を示す。ヒスチジン、グルタミン、スレオニン、リジンなどのアミノ酸は亜鉛と強く結合している。

 ヒトはインスリンの合成に亜鉛を必要とする。癌患者および熱傷の被害者は特に亜鉛欠乏の危険性がある。創傷治癒、炭水化物およびタンパク質の代謝には適切な亜鉛代謝が必要とされる。肝臓、腎臓、網膜、筋肉組織には大量の亜鉛が貯蔵される。免疫系機能におけるこの元素の役割は十分確立されている。重症の亜鉛欠乏は胸腺発育不全およびリンパ球応答の低下を生じるということが示されている。亜鉛欠乏症では免疫グロブリン濃度は正常または低値を示すと考えられる。欠乏症は腎疾患、胃腸疾患、アルコール乱用にも関連している。精巣および皮膚の正確な亜鉛濃度については確立されていないが、臨床試験では亜鉛欠乏がこれらの組織に強く影響を与えることが確認されている。

 栄養障害および吸収不良は亜鉛欠乏の最も一般的な原因であり、妊婦および静脈栄養法長期施行患者は亜鉛補充をしない場合、亜鉛欠乏の危険性が非常に高い。カルシウムの過剰摂取は亜鉛の吸収を低下させる。

サプリメントとしての形態

重症の欠乏症状

 亜鉛欠乏の最も重症の臨床症状は腸性肢端皮膚炎で、手足または開口部の病変、下痢、食欲不振、脱毛、重度の成長遅延、被刺激性、感染感受性の亢進が生じる。この病態は1973年にMoyahanとBarnesにより初めて実証された。彼らは肢端皮膚炎の患者を研究し、亜鉛濃度(190μg/L)が非常に低いこと をつきとめた。妊娠中の亜鉛欠乏は妊娠に関連した脱毛症の原因であることが知られている。

その他の徴候と症状

 軽度の亜鉛欠乏症状は、嗜眠、成長遅延、食欲不振、男性の性機能低下症、皮膚の変化、四肢の冷え、循環障害、めまいなどがある。若年患者は関節痛を訴えるが、高齢患者は急性関節炎、銅および鉄の代謝障害があることが多い。重金属曝露は亜鉛欠乏症状を悪化させることがある。

 亜鉛は脳(海馬)にかなりの量が沈着する。欠乏症は分裂病およびアルコール依存症に関連してる。Pfeiffer教授は、亜鉛、ビタミンB6、マンガン、マグネシウムの補充後に患者に見られた著しい改善について報告した。精神疾患、嘔気、慢性下痢、口臭、顔面蒼白などの症状は消失した。味覚消失は亜鉛およびビタミンB6欠乏の結果生じることが多い。

亜鉛と前立腺疾患

 前立腺液中の亜鉛は抗菌因子とみなされており、慢性細菌性前立腺炎および尿路感染症の予防の一因となっていると考えられる。Dr. Fairら(St. Louis大学)は前立腺抗菌因子(PAF)を前立腺液から分離し、PAFの細菌活性が亜鉛濃度依存性であることを見出した。慢性細菌性前立腺炎の男性15例から得られた60の検体について検査したところ、平均亜鉛濃度は50μg/mLであったが、健常コントロール49例から得られた65の検体の亜鉛濃度は448μg/mLであった。

亜鉛、成長、性成熟

男性:

 亜鉛欠乏は成長遅延を引き起こし、こびと症に関連している。1961年に、Dr. PrasadとDr. Halstedはこびと症のイラン成人を対象に行った臨床試験について発表した。試験されたいずれのこびと症患者にも亜鉛および鉄欠乏が認められることが報告された。鉄欠乏を矯正すると全体的な健康状態は改善されたが、成長に対する影響は認められなかった。Dr. Prasadによる追跡比較対照臨床試験では、亜鉛補充が成長速度に影響を及ぼすことが示された。性的に未熟な24歳のこびと症男性17例を2群に分けた。コントロール群の男性8例は正常の性機能を確立することを目的とした栄養食を摂取した。他の9例は同じ食事を摂取したが、1日あたり100mgの硫酸亜鉛を追加した。その結果、コントロール群では正常の性機能が確立するまでに224日を要し、平均4.2cm成長した。補充群では59日以内(4倍の速度)に正常機能が現れ、平均10.5cm成長した。

 イランの平均的な食事には大量のフィチン酸塩が含まれている。フィチン酸塩は発酵させてないパンにみられ、亜鉛の吸収を阻害する。亜鉛欠乏症の若年者におけるインポテンスは亜鉛補充開始4〜6ヵ月後には回復したと報告されている。また、亜鉛欠乏は若年者における陰茎発育不全の原因である可能性があることも確認されている。亜鉛およびビタミンB6の補充は正常な性成熟、腋毛およびヒゲの成長を促進する。

女性:

 若年女性における月経障害は亜鉛欠乏に関連している。このような症例をエストロゲンで治療すると、エストロゲンは銅濃度を上昇させ、亜鉛濃度を低下させる傾向があるため、うつ症状および月経障害が悪化する。亜鉛およびビタミンB6の補充によって3ヵ月以内に症状が軽減し、月経周期は正常化する。イラン人を対象にした研究では、性的に未熟なこびと様少女ではしばしば亜鉛の欠乏が認められるということが示された。これらの少女には2次性徴の欠如がみられ、亜鉛療法により性成熟が改善される。

 早朝嘔吐、先天性欠損も亜鉛とビタミンB6の欠如に関連している。カリフォルニア大学のDr. Lucille Hurleyは、亜鉛欠乏を誘発した実験用ラットにおいて死産、先天性欠損が認められたことを報告した。Dr. Caldwellら(デトロイト)は、亜鉛欠乏ラットの子孫では重度の精神障害または知能発育遅延が認められたと報告した。ヒトにおける研究では、イランまたはエジプトの小児の30%は物覚えが遅く、これらの国では亜鉛欠乏症が多いということが示されている。

 亜鉛欠乏症の女性では臀部、大腿上部、胸、肩に皮膚線条がみられる。亜鉛補充によりこのような症状を予防することができ、またこれらの症状をある程度回復することができるということが知られている。

興味深い点

 Dr. Pfeifferは、亜鉛療法中の極端な亜鉛欠乏症患者では赤みを帯びた毛髪は突然に茶色に変化したが、白髪は正常な黒色に戻ったと報告した。座瘡などの皮膚症状は亜鉛療法が奏効することが多い。

亜鉛欠乏の臨床症状

· 疲労

· 免疫不全(感染)、創傷治癒遅延

· 味覚消失

· 成長不良

· 前立腺炎、不妊症

· 月経障害

· 性成熟遅延

· 膵酵素産生低下によるタンパク質代謝障害

· 皮膚疾患、湿疹、皮膚炎

· 食欲不振

· うつ病

· 授乳期間の乳分泌低下

· インスリン合成低下

· 脱毛

· 手指爪の白斑、白みがかったまたは乳白色の外観、隆起部

手指爪の亜鉛欠乏症状

a)厳格な絶食期間または栄養不良により生じる孤立白斑。菜食や病院食は亜鉛含量が低いことが多く、亜鉛欠乏症の原因であるということが十分に実証されている。

b)手指および足指爪の数個の白斑は急性亜鉛欠乏症状であると考えられる。このような異常は、急性亜鉛欠乏症および行動障害を認める11歳の少年でみられた。

c)亜鉛療法を中止した女性高ピロール尿患者の爪の白斑および白縞

d)高血圧および血清銅高値を認める高齢の高ピロール尿患者の不透明な爪。亜鉛およびビタミンB6療法により爪の色と血圧の両方が正常化した。

e)隆起部に出現している白斑はウイルス感染および高熱(尿量減少を伴う)が原因であった。高熱により代謝率が変化して垂直の隆起部が生じた。

Daily zinc requirements (in mg)

German Society for Nutrition) US RDA

Infants 0-12 months

3-5

 

Children 0-12 months

8-10

 

Children 4-6 years

10

 

Children 7-12 years

10-15

Children 13-14 years

15

 

Adults

15

 

Pregnant women

20

 

Nursing mothers

25

 

 

Zinc content in foods (mg/100g)

Plant foods

Animal foods

Yeast

8-30

Oyster

65-100

Wheat germ

10-20

Organ meat

to 23

Legumes

3-20

Cheese

2-5

Pine nuts

14

Meat

2-4

Rolled oats

7-14

Shrimps

2.3

Wheat bram

3-13

Lobster

1.6

Spices

to 9

Eggs

1.35

Nuts

2-5

Fish

0.3-1.2

Chickin

0.9

Sunflower seed

5

Whole milk. Yogurt

0.4

 

 

Cereals

1-4.5

 

 

Cocoa powder

4

 

 

Corn

2.5

 

 

Pasta

2

 

 

Rice (unpolished)

0.8-2

 

 

Onion

1

 

 

Vegetables

0.1-0.9

 

 

Potatoes

0.3

 

 

Fruit

0.1-0.3

 

 

 

亜鉛過剰症状

· 鉄および銅代謝障害

· 免疫機能障害

· リン代謝障害、その結果、骨格ミネラルが消失する。

· 成長障害

· Zn/Ca比高値は骨粗鬆症の危険因子であると考えられる。

 中毒症例

  1日に塩化亜鉛3〜5gおよび硫酸亜鉛7〜8gを経口摂取して致命的な急性中毒が生じた。このような不慮の過量投与はきわめてまれである。急性毒性症状は下痢、嘔吐を生じる。

  16歳の少年がピーナツバターと混ざった亜鉛12gを摂取した。わずか3日後に、嗜眠、バランスの消失、筆記困難(脳の症状)などの症状が発現した。迅速で適切な治療により健康を取り戻した。

 亜鉛中毒または過剰症の治療方針

 キレート試薬の経口または静脈内投与

 キレート化前後の尿中排泄量を測定すること

 銅、鉄、マンガン濃度を測定すること

 相乗拮抗作用

 疾患への応用

  臨床検査ICP-AESとICP-MSによる亜鉛の測定は再現性が高い。

通常、亜鉛の状態を評価するために血清および血漿が用いられているが、尿および白血球の亜鉛濃度も欠乏症や毒性を確認するために利用されている。

・全血分析値

細胞内および細胞外亜鉛濃度の優れた指標で、食事の変化、キレート化、化学療法に対する反応を迅速に評価できる。

  尿中亜鉛濃度

食品亜鉛の減少およびキレート化に反応して非常に迅速に変化する。亜鉛は、銅と同様に速やかにキレートを形成するため、亜鉛の状態をキレート化の前に評価する必要がある。

・毛髪亜鉛高値の意義

 毛髪中の亜鉛濃度は他の組織中の亜鉛濃度とよく相関している。しかし、脱毛症では毛髪の成長障害のため、きわめて高い毛髪亜鉛濃度が亜鉛欠乏症を隠すこともあり得る。亜鉛含有シャンプーに起因する外因性の影響によっても間違って毛髪亜鉛高値を示すことがある。日本人では5人に3人が毛染めを使用していることも外因性の影響の1つであり、そのようなシャンプーまた毛染めを使用している場合は、かわりに陰毛または爪を分析するべきである。

 ミシガン大学のArdon Gordus教授は、IQの高い学生の毛髪ミネラルの分析結果は典型的に銅および亜鉛高値を示すことをつきとめた。

毛髪亜鉛低値の意義

 毛髪亜鉛低値は組織貯蔵量が少ないことを反映している。不十分な摂取またはミネラル代謝障害により生ずる。

· 水:EPAは飲料水中の濃度を5PPM以下にするよう勧めている。

治療方針

· ビタミンB1(チアミン)、B6(ピリドキシン)、ビオチン、ビタミンEは亜鉛療法の効果を増強する。

· ヒスチジン、グルタミン、スレオニン、シスチン、リジンなどのアミノ酸は亜鉛の利用を高める。

研究

 亜鉛欠乏および過剰摂取は免疫抑制を引き起こす。AIDS患者は亜鉛が欠乏しているということが観察されている。

 欠乏は免疫抑制およびT細胞の反応低下に関連している。胸腺ホルモンの活性は非常に低い。

 若年男性6例に1日あたり亜鉛0.28mgとタンパク質0.8mgを含む食事を摂取させた。4〜9週間後、血漿および血中亜鉛濃度の有意な低下が報告された。血清、尿、糞便中排泄量は著しく低下した。白血球走化性は低下し、免疫抑制症状が発現した。

 健常男性11例に1日あたり150mgの亜鉛を補充した。6週間後、白血球の応答低下が観察された。

 ダウン症候群(DS)患者は胸腺ホルモン低値を示すことが多い。この欠乏は硫酸亜鉛の補充によって消失する。

学習能力に及ぼす影響

Halasは、妊娠および授乳中のラットの亜鉛状態を調べた。妊娠および授乳中のわずかな亜鉛欠乏が子孫の学習能力および記憶の低下を引き起こすという結果が示された。

亜鉛欠乏と尋常性座瘡

コントロール群と比較して、尋常性座瘡患者(男性と女性)では血清亜鉛が28.3%、毛髪亜鉛が24.1%、爪亜鉛が26.7%低値を示した。赤血球亜鉛濃度およびアルカリホスファターゼ活性は正常であったが、赤血球検査からは正確な臨床像は得られないということを強調する必要がある。

参考文献

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depletion in young men, Am J Clin Nutr 39:556-570, 1984.

Riordan, JF: Biochemistry of zinc, Med Clin North Am 60:661-674, 1976.

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diet on autoimmunity and the role of zinc in the immune response, Annu Rev Nutr

2:151-177, 1982.

Moynahan, EJ, and Barnes, PM: Zinc deficiency and a synthetic diet for lactose

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Mokherjee, MD, Sanstead, HH, Ratnaparlohi, MV. Et al: Maternal zinc, iron, folic acid

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Patrick, J, and Dervish, C: Leukocyte zinc in the assessment of zinc status, CRC Crit

Rev Clin Lab Sci 20:95-114, 1984.

Prasad, AS: Clinical manifestations of zinc deficiency, Anna Rev Nutr 5:341-363, 1995.

 


Copyright 1998 - 2005 by L. Vicky Crouse, ND and James S. Reiley, ND. All rights reserved (ISSN 1527-0661).
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